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大阪高等裁判所 平成11年(ラ)113号 決定 1999年5月19日

抗告人(債務者) 有限会社ミューズメンテナンス

代表者代表取締役 A

代理人弁護士 田村博志

相手方(債権者) アール・ビー・インベストメンツ株式会社

代表者代表取締役 B

代理人弁護士 來山守

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は、「原決定(本件債権差押命令)を取り消す。」との裁判を求めるというものであり、抗告の理由は、別紙記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(一)  株式会社大信販(平成四年四月一日株式会社アプラスに商号変更)は、原決定別紙物件目録記載の不動産(以下「本件建物」という。)について、抵当権上の債務者(所有者兼賃貸人)である株式会社ミューズ(以下「ミューズ」という。)から、平成二年二月二〇日、順位一番、被担保債権額四億円(その後三億円に変更)及び順位三番、被担保債権額二億九〇〇〇万円の各抵当権の設定を受け、同日、その旨の登記を、同年一二月二一日、順位五番、被担保債権額一億円の抵当権の設定を受け、同日、その旨の登記をそれぞれ経由した(以下、上記各抵当権を「本件抵当権」という。)。

(二)  株式会社大信販は、平成四年三月二七日、株式会社アークエステートに本件抵当権付債権を譲渡し、同年四月二一日、本件抵当権移転の各付記登記を経由した。

(三)  株式会社アークエステートは、平成一〇年八月七日、相手方(債権者)に本件抵当権付債権を譲渡し、同年一〇月三〇日、本件抵当権移転の各付記登記を経由した。

(四)  ミューズは、平成四年三月二七日に支払うべき本件抵当権の被担保債務(分割金)の支払いを怠り、期限の利益を失ったが、その直後の同年七月一日、本件建物を債務者(賃借人兼転貸人)である抗告人に賃貸し(以下「本件賃貸借」という。)、さらに、抗告人は、同年一二月二八日、本件建物を第三債務者(転借人)である株式会社大阪有線放送社に転貸し(以下「本件転貸借」という。)、その後は、抗告人が同社から転貸料を受領するようになった。

しかし、抗告人は、本件転貸借に基づく中間利益を一切取得しておらず、ミューズに対し、転借人から受領した転貸料をそのままミューズに対する賃借料として支払っているにすぎない。

(五)  抗告人は、ミューズとは形式的には別の法人とされているが、本件賃貸借当時、抗告人の代表者はミューズの代表者であるC(C1)の妻Dであった上、C自身も抗告人の取締役を兼任しており、ミューズと抗告人との関係は実質的にも同一の地位にあるものと同視しうる関係にあった(なお、抗告人の現在の代表者はAであるが、同人が抗告人の代表者に就任したのは本件賃貸借後の平成四年一二月一日であり、Dが抗告人の代表者を就任した経緯も必ずしも明らかとは言い難いことからすると、DからAへの代表者の変更は、抗告人とミューズとが独立した関係であるように仮装するためのものである疑いも否定できない。)。

(六)  相手方は、平成一一年一月八日、大阪地方裁判所に対し、本件抵当権に基づく物上代位により、相手方のミューズに対する被担保債権のうちの元本一億円を請求債権として、抗告人が本件建物の転貸人として転借人に対して有する転貸料の差押命令を求めたところ、大阪地方裁判所は、その旨の債権差押命令(原決定)を発令した。

二  ところで、抵当権の物上代位の効力は、抵当権設定者が抵当権設定後に目的不動産を賃貸した場合の賃貸料債権に対して及ぶと解されるほか、目的不動産がさらに転貸された場合においても、賃貸人と転貸人との関係等から両者が実質的に同一の地位にあると同視しうる場合、あるいは転貸借が抵当権の行使を詐害する目的でされたと認めうるような場合においては、転貸人が転借人から受領する転貸料債権にも及ぶものと解するのが相当であるところ(もっとも、この場合、民法三〇四条一項の「債務者」は、「抵当権の目的不動産上の権利者」と読み替えることになる。)、前記1認定の事実によれば、抗告人は、形式的にはミューズとは別の法人とされているが、従前の役員構成等からも極めて密接な関係にあることが推認されるのであって、両者は実質的に同一の地位にあるものと同視することができるというべきであるから、本件抵当権の物上代位の効力は、抗告人が転借人から受領する転貸料にも及ぶものと解するのが相当である。

したがって、相手方の申立てに基づいて、抗告人の転借人に対する転貸料債権を差し押さえた原決定は相当であるから、原決定には抗告人主張のような違法はない。

三  よって、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 熊谷絢子 亀田廣美)

<以下省略>

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